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相続・贈与時の不動産の評価(財産評価基本通達と不動産鑑定評価)について

「評価通達額」による評価を認めなかった判例

 これは課税庁側が「鑑定評価額」を主張した珍しいケースです。

 90歳を超える被相続人は、相続発生約3年前に不動産2物件を8億3千万円と5億5千万円で購入し、購入資金の8割弱は金融機関借り入れでまかなっていたケースです。
 しかも、金融機関の融資を受ける際には、相続税対策であることも明言していました。
 そして、相続開始後に、それぞれの不動産を「通達評価額」(小規模宅地の評価減特例も使っています)により2億円と1億3千万円と評価し申告しました。

 また、相続開始から9か月後には5億5千万円で購入した不動産(申告上評価額1億3千万円)を5億1千万円で売却しています。
 当然のごとく、課税庁は「鑑定評価額」により2物件を7億5千万円、5億2千万円として更正処分をしました。
 東京地裁では国側(課税庁側)が勝っています。
 前ページでは「通達評価額」が「時価」を上回るような特別の事情・・・・がある場合に限り「鑑定評価額」を認めると説明しましたが、このケースでは「通達評価額」が「時価」を上回っていないのになぜ?ということになります。
 この判例の場合、不動産の直前の購入や借入行為が「特別の事情・・・・・」に該当し、相続税を免れる目的のみでの一連の行為であり、このような節税策を行えない他の納税者との間で租税負担の公平性著しく害することが明らかであるとしました。
 つまり、「時価>通達評価額」という状況を利用した過度な節税策(図1参照)に警告を発したものといえます。



 「通達評価額」を認めず「鑑定評価額」により更正処分を下されたケースは他にもありますが、同様に「時価>通達評価額」という状況を利用し、直前・・に不動産を購入したケースです。

 なお、昭和の終わりから平成初期にかけてのバブル時代には、不動産価額の急激な上昇に「通達評価額」が追い付かず「時価>通達評価額」という状況が常態化していました。
 そのため、今回のケースと同様の相続直前の不動産購入という節税策が多く行われていました。
 そこで昭和63年末以降は相続上の不動産の評価は「取得後3年間は通達評価額ではなく取得価額をもって相続税を計算する」こととされました。
 しかし、この後バブル崩壊により不動産価額が急落したため、この個人の「3年以内取得価額課税」は平成8年に廃止されて現在に至っています。
 現在この「3年以内取得」の制限を受けるのは、未上場株式の評価上の不動産評価です。
 また、「3年以内」繋がりでいえば3年以内に事業の用に供した「貸付事業用宅地」と「特定事業用宅地」の小規模宅地の評価減特例適用不可という最近の改正も駆け込み節税対策の封じ込めという点では覚えておきましょう。

最後に

 「通達評価額」では評価しきれない(「時価」を上回る評価となる)場合に「鑑定評価額」を利用することは非常に有効な手段です。
 私もこれまで「鑑定評価額」による相続等の申告は行ってきており、認められなかった例は今のところありません。
 しかし、課税庁(税務署)は「通達評価額」が原則であり、「鑑定評価額」による申告は例外と考えています。
 「鑑定評価額」にはかなりの費用が掛かりますし、否認されるリスクもありますので、「通達評価額」では反映されない特別な事情・・・・・を明確にし、「時価」と「通達評価額」・「鑑定評価額」を十分に検討したうえで活用してください。


詳細な適用要件等は専門家に確認しましょう。

文 税理士・CFP(R) 西木敏明

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