損失を回避する指向 (行動ファイナンス その1)(2)
利益が倍になっても、満足度は倍にならない
いずれの選択肢も150万円の利益が得られるという期待値は同じです。
しかし研究では、問1では多くの人が確実に150万円を手にできる選択肢Aを選ぶのだそうです。
問1で、50%の確率で100万円を上乗せできる機会よりも、確実に50万円を上乗せできる選択肢を選ぶ人が多いのは、150万円と200万円の差では満足度が逓減されるため、リスクをとるほどの魅力がないから。
企業型確定拠出年金で定期預金を選ぶ人が多い理由もここにありそうです。
会社が掛金を出してくれるという時点ですでに利得による満足を得ており、追加の利益に対する満足度は逓減されるため、株式や外貨の投資信託でリスクをとってまで運用する意欲があがらないためです。
損失を回避することを優先
合理的に考えるなら、問1で選択肢Aを選んだ人は問2でも選択肢Aを選ぶはずです。
ところが問2では、50万円の損失を確定することの不快感が大きく、これを回避しようと選択肢Bを選ぶ人が多いのだそうです。
冷静に考えれば選択肢Bでは50%の確率で100万円を没収されることになるのですが、損失は0円から50万円になるときに不快感が強くなるため、これを0円にすることに魅力を感じてしまうのです。
損失が50万円から100万円に上がるところでは不快感が高まる度合いが逓減されるため、よりリスクの高い選択をすることにはずみがつくのだと思われます。
運用でいうならば、損切りして仕切り直すことが必要な時もあるのに値が上がるまでじっと待ったり、客観的に値が上がるとも思えないのに買い増しを行ったりする状況が思い浮かびます。
行動ファイナンスの活用法
このプロスペクト理論をはじめ、合理的でない行動を引き起こす原因のことを行動ファイナンスでは「バイアス」と呼んでいます。
運用は事象が発生する確率を正しくとらえ、適切に行動選択することが基本。
確定拠出年金で老後資金の運用をする我々は、自分が陥りやすいバイアスを知って的確に自制し、より合理的な運用ができるよう心がけたいものです。
次のコラムでは、アベノミクス効果で資産を増やした方が、今陥りやすいバイアスについてお話していきます。
文 FP 西木雅子
- 1
- 2